働くお母さんの
飽くなきチャレンジ
「食べることが大好きです。美味しいものを我慢せず、たくさん食べながらも、健康維持、体型維持をするために走っています。そしてランニングは、靴紐を結んで外に出れば、自分への挑戦を気軽にできます。記録もそうですし、メニューをしっかりこなせるかという、自分への挑戦です」
日々のランニングについてそう語るのは、東京都在住のランナー、森菜穂子さん。いわゆる市民ランナーである彼女だが、一日の中で走れる時間は極めて限られている。というのも、森さんは3児の母であり、フルタイムで働く会社員でもあるのだ。現在は家事に育児に仕事にと、目まぐるしい毎日を送りながら、なんとか時間を作ってトレーニングを続けている。森さんがそこまでして走るのは、しっかりと自分を追い込みたいと考えるその先に、どうしても達成したい目標があるからだ。


「目標はフルマラソンでサブ3.5(3時間30分以内で走り切ること)。目標は少し高い方が良いと考えていて、恐らくサブ3.75(3時間45分以内)はできると感じているので、それより高いタイムを目標にしています」
スポーツで流す涙
マラソンを走ってみたいと思うようになったのは、ランニングを始めて少し経った頃、周囲のランナーからフルマラソンのタイムを聞かれることが増えたことがきっかけだった。学生時代は柔道に打ち込んでいたこともあり、その練習の一環として行っていたランニングは、もともと経験があった。卒業してからはスポーツから距離を置いた生活を送ってきたが、走るようになってから、再びそれと向き合う機会がやってきた。
そして2021年3月に走った、初めてのフルマラソン。大きな大会で華々しいデビューを飾るつもりが、河川敷の周回レースになってしまったが、コロナ禍でも走れることをポジティブにとらえ、とにかく全力を尽くした。完走後、森さんは自身のリザルトに泣いた。

「目標はサブ3.75でしたが、結果は3時間51分24秒。達成できず、久しぶりにスポーツで涙しました。私は小学生から大学生まで14年間、柔道をやってました。必死にやっていたので、試合で負けた時、うまくいかなかった時、悔しくて泣いたことがあったんです。社会人になって柔道と離れてから、スポーツで涙を流したことは約10年ありませんでした」
社会人になって、母になって。ライフステージの変化の中で、いつしか忘れていた感情を再発見できた瞬間だった。
「マラソンを走って、すごく悔しいという気持ちを持ったと同時に、涙を流せたことを嬉しく思いました」
タイムマネジメント
必死に取り組んでいるからこそ、悔しくて泣くことができる。森さんはそれだけ走ることに本気だ。そして、そんな自分は「アスリート」だと言う。
「家事、育児、仕事をする中、ストイックにスポーツを楽しんでいます。自分に使える時間はほぼ早朝だけ。家族の予定をみて、逆算して練習時間を作っています。忙しい中時間を捻出してトレーニングをしている自分はアスリートだなと感じています」


毎日精力的に動き続ける母の1日のスケジュールを、いつもそばで見ている森さんの長女がシェアしてくれた。日常生活を維持しながらのトレーニングには、タイムマネジメントが重要となる。森さんが一日の中で自分だけの時間を持てるのは、家族がまだ寝静まっている早朝の時間のみ。通常は4時台から活動を開始するが、メニューによってはもっと早く起床することも。
「(右のアクティビティは)朝3時30分にスタートして1人で30km走をしたものです。その前の週に行った友人との30km走では後半にハムストリングスが痛くなり、20キロでストップしてしまいました。途中で止めてしまった自分が嫌で、この日は絶対に走り切ると決めてスタートしました」
恐怖心を解消する
早朝からハードなトレーニングを積むこともあるが、忙しさのあまり、もちろん練習ができないこともある。
「自分が積み重ねてきたものをゼロにしたくない、ステップアップした自分を見てみたい、という思いで練習を積んでいます。なので、走れなかった日は、 スピードが遅くなってしまうのではという恐怖心を感じます」

そんな時は、とにかく前向きに、そして時には仲間たちを頼るのが、森さん流の気持ちの上げ方。
「走れなかったけど切り替えて、次また頑張ろうとポジティブに思うようにしています。ランニングを通してできた友人が、Stravaで私の日々の練習記録を見てアドバイスやエールをくれるので、そんなコミニュケーションを取ることでモチベーションを上げています。私も友人のログを見て、『自分も頑張ろう!負けない!』と思うことができています」
強さへの近道
フルマラソンでサブ3.5の目標を達成できた後、次にやってみたいことはもう決まっている。
「実は、サブ3.5ができたら、もうキツい練習をするのはやめて、ファンランに切り替える予定でした。でも友人に『サブ3.5してからが楽しいよ』と言ってもらったり、私より走力のある女性ランナーと出会ったことで、目標を達成できたあと、自分はどこまでいけるのか、その先を見てみたくなったので、またいけるところまでいってみたいなと思います」
いけるところまでいく。そのため森さんが導き出した、強さへの近道とは。
「できる自分をイメージすること」
彼女の中には、目標に向かってひたむきに努力を積み重ねる、強くてポジティブなアスリートが確かに存在していた。

